ここまで冴えない佐藤健も珍しい。
イケメン以外に、ヤンキーだったりクセが強かったり、ヘタレだったりする佐藤健は見たことあるけど、借金を抱え妻に逃げられそうになっている30代の図書館司書という地味すぎる役に、これって佐藤健である必要ある?って鑑賞中何度か反芻してしまうほど。
借金返済に明け暮れる主人公、一男(佐藤健)は宝くじで3億円を手にしものの、使い道を相談した親友、九十九(高橋一生)に持ち逃げされてしまう。彼を探すために彼と共にかつて事業を成功させ、共に何億もの大金を手にした仲間たちに会い”金とは?”について深く考察することとなる。
映画プロデューサーである川村元気の、映画のための小説(決めつけてはいけないかもしれなが、デビュー作「世界から猫が消えたなら」を読んだ後映画化された時は、さもありなんと思ったものだ)と、映画化された作品は今一つ食指が動かない。ひとえに「世界から・・」を期待して読みすぎて、ラスト(のオチ)にがっかりしたせいだろう。
で、今回の「億男」もなんとなくラスト(オチ)が想像できて期待せずに観た。確かにオチは想像したのと大して変わりなかったが、そこに至るまでに畳みかけるように提供された、金持ちの人々との出会いのオムニバスショートストーリーは過激で興味深かった。というかストーリー云々より、オムニバスのキーマンを演じたそれぞれの俳優が、私にとっては前のめりで観てしまう程の面白さ!最初の北村一輝を見ただけで、やっぱり観て良かった!と思ったほどだ。
北村は、最初誰だかわからなかった。実年齢より10歳以上若い設定で、IT開発者で変わり者ぶりが半端ない。
次の藤原竜也は、語るまでもない。イカれたインチキ感が半端なく、よくまあ佐藤健は笑わずに普通の人としてやつの前に立ってたなと思うくらい可笑しかった。北村一輝も藤原竜也も、成金のでっぷり感を出すため、胴回りに何か巻いていた(?)のもナイス!
そして3人目の沢尻エリカは昔輝いていた人、今は公団に住む主婦という役がなんとはまっていたことか。細い眉と薄い化粧、金に纏わる人生について悟った感じの女。この女優、女優として一番キラキラした年代を自ら棒に振った後、その間舐めた辛酸が何十倍にもなって肥やしになったんだろうとつくづく思う。本作も出番こそ少ないが、見た目で役のほとんどを語ったのは素晴らしい。
最後に、学生時代に株で1億円稼ぎ、お金とは?について深く考える”旅”をする九十九を演じた高橋一生。吃りというハンディを持ちながらも落語を演らすど淀みなくしゃべるという設定。
吃りの高橋を初めて見たのだが、やはり芸達者だなあと、改めて思った。一男に対して揺るぎない信頼と友情を持ち合わせているのはわかるが、それ以上の人物の背景は語られない。なんかフワフワしていて正体不明、まるで一男の人生の船頭のように存在する男。居そうで絶対居ない、そんな男を存在させたのはやはり高橋のなせる技。すごいなー。
佐藤健は、アクのない、普通の人をやることが増えたよね?でもそれが一番難しいと思う。とにかく全編、ほかの出演者のいっちゃっている演技のなか、一人平静を保ち、普通の男を演じきったとことで◎。