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はやし蜜豆の犬も歩けば棒に当たる、

好きな俳優の作品を集中して観るのが好き。その記録や映画の感想、日常気になる現象をぼそぼそ綴っていきます。

「風博士」(世田谷パブリックシアター)

初めて林遣都の舞台を観た。

「風博士」。坂口安吾の「風博士」「白痴」をモチーフに北村想が書き下ろしたもので、シス・カンパニーがプロデュースする「日本文学シアター」のVol.6となる。

 

鋼のバネのように飛んだり跳ねたり(飛び上がって敬礼したり、殴られたり)の林遣都(スガシマ)が、まだ女も知らない19歳の初年兵役に違和感なし。その(心も体も)真っすぐでポキッと折れそうな出で立ちのスガシマと、彼とは対照的にふにゃふにゃと所在なげで柔らかい身のこなしと気ままさ、家族を目前で殺され頭のネジが飛んでいってしまった女の趣里(サチコ)。二人の邂逅が初々しく痛々しい。

 

終戦間近の大陸で、日本軍の駐屯地近くで女のいる酒場を営みながら、軍と上手くやっているフーさん(中井貴一)が、くだんのサチコ(趣里)を預かることになるところから物語は始まる。フーさんは元科学者で、風船爆弾の研究をしていたらしい。戦禍の中を飄々と生きながら、店の女の梅花(渡辺えり)や鶯(吉田羊)、広瀬大尉(段田)とのやりとりが優しくて知的だ。故にフーさんの中井貴一はめちゃくちゃカッコ良かった。踊りこそないけど、ミュージカルみたいにたくさんの歌が挿入され、中井貴一の歌も絶品!歌手みたいに歌い上げないところもさすがだ。

負け戦で爆撃や敗走の中で、これらの歌が戦禍の恐怖と重苦しさを少しだけ和らげていた。爆撃の中でフーさんとサチコが歌う「情操教育」という歌がある。厳しい現実と真実を歌った歌詞を、爆撃音の中で聞くものだからどストレートに体に刺さり、泣けてきた。そして、鑑賞後購入したパンフレットに、役者さんたちの座談会が掲載されていたのだが、その中で林遣都もこの歌が心に刺さった、と言っていたので歌詞をパンフレットから引用して、紹介させていただく。

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情操教育

もしおまえが 正しさを知りたければ

おまえは 悪を学ばねばなりません

 

もしおまえが やさしさを感じたければ

おまえは 酷(きび)しさもおぼえなければなりません

 

もしおまえが 愛を手にしたければ

おまえは 憎しみも受け入れねばなりません

 

もしまえが 勇気を身につけたければ

おまえは 臆病にならねばなりません

 

もしおまえが 生きたければ

おまえば 死ぬ運命を避けてはいけません

 

ただ ひらひらと 白く美しく降る雪ですら

憎まれることは あるのですから

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個人的には、始まってしばらくは台詞が早くて聞き取れず残念だった。これは私の観劇する者としての耳の未熟さだと思うのだが、渡辺えりや吉田羊の女優の台詞は聞き取れた。早口じゃないからか。。 

舞台装置の酒場の建物がジブリ作品に出てきそうな書割で懐かしさを感じた。そういえば時代背景も宮崎駿監督の「風立ちぬ」と同じだし、極めつけはパンフレットの裏表紙が青空に飛ぶ紙飛行機。ただ私が気づいた偶然を書いたまでで他意はない。

大笑いしたり号泣したわけではないけれど、翌日も翌々日も、しばらく舞台の雰囲気や役者さんの立ち姿の余韻が残る懐かしい感じの舞台だった。

 

遣都の歌は、想像していたよりマズくなかったです。

一緒に行った友人が、あの役柄にふさわしくヘタウマに歌うのって難しいよね、と言ってくれた。

恋も知らない遣都初年兵の、一生懸命さとまっすぐで強い瞳が愛おしかった。