はやし蜜豆の犬も歩けば棒に当たる、

好きな俳優の作品を集中して観るのが好き。その記録や映画の感想、日常気になる現象をぼそぼそ綴っていきます。

「運び屋」(2019年)

沁みたあぁ。

撮影当時87歳だったクリント・イーストウッドが演じるアールの佇まい、ゆっくりした動作、眩しいものを見上げるような目の表情、少し間のある台詞、そのすべてが味わい深く愛おしい。こんなにも、90歳近い”おじいさん”を愛おしいと思ったことがあるだろうか。

実在した87歳の麻薬の運び屋を、同い年のイーストウッドが演じ、90年近い人生の中で彼が手にしてきたもの、失ったもの、取り返そうとするものを描く。なぜあそこまで家族を置き去りにして仕事を優先してきたのか。仕事とは品評会に出すほどのユリを育てることなのだけど、要は彼は外面のいい、いい恰好しいの男なのだ。90歳に近くても、女性を喜ばせる軽口をたたき、退役軍人としての矜持を持ち、誰かが困っていれば寄付もして助ける。

インターネットに押されて旧来の農場運営はつぶれ、金のために偶然知った「運び屋」の仕事を受け、4回目くらいからは自分が運ぶものがドラッグであることが分かっても、孫娘の学費や退役軍事クラブのために必要な大金を稼いでいく。メキシコにいるマフィアは、交通違反切符0、組織の指示に従わない気ままな旅をする老人故に警察に目を付けられないアールを運び屋として重宝がる。

人生の終盤に家族の大切さを思い知り、家族との絆を取り戻そうと金銭的工面をするアールだが、大きな”山”を運んでいる時、妻の危篤を知る。仕事(運び)の途中で妻の死に目に会いにいくアールは、警察と組織に同時に追われることになる。しかし警察に見つかったおかげで組織に殺られることもなく、妻を一緒に看取ったことで娘も彼を赦し家族との絆は取り戻すことができた。その意味では一応ハッピーエンド(?)なのだろう。

 

刑務所でリリーの花を植えるアールの姿をラストシーンに、カントリー歌手のトビー・キースの「Don’t let Old man in」が静かに流れだした途端、突然涙が溢れてしまった。”老いを迎え入れるな”と静かに歌う歌詞は、クリント・イーストウッドが若くいるための秘訣として心にとめている言葉「絶対に年寄りだと思わないこと」からインスパイアされて作ったとある。(billboard japan 2019.3.19 記事より)とにかくその歌詞とカントリーミュージックが五臓六腑に沁みた。

自分の名声や外面を良くするために仕事にかまけ、家族との時間を犠牲にしてきた、実はろくでもない男が、晩年犯罪に手を染めて・・という話なのだけど、描かれる一人の人間の人生の厚みが深い。そして「歳をとるのも悪くない」「人間いくつになっても取り返そうと思えば取り返せる」みたいなことを、涙でぼやけたエンドロールを見ながら漠然と考えていた。

 

運びの仕事中、パンクして困っている黒人カップルを助けるシーンがある。「今の若い連中は、ネットにつながらないとタイヤ交換もできない」と言いながら助けるその姿に、クリント・イーストウッドと同世代の父を思い出した。以前、私の連れが自転車のパンクを直せないことに対して「パンクも自分で直せないのか。」とややあきらめ顔で独り言ちていた。

戦争に行っていないし、運び屋もしていない、ましてイーストウッドのようにカッコよくもないけれど、今、田舎で母の介護を一人でしている父。昔の人は、大概の身の回りのギアの修理など自分で器用にこなしたものなのね。

80年以上、死なずに生きてきた人に対して、ただその1点に対してだけでも尊敬の念を抱かずにはいれない。そんなことを思わせてくれる作品だった。 

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  • 出版社/メーカー: ワーナー・ブラザース・ホームエンターテイメント
  • 発売日: 2019/11/06
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