目が覚めたら姿形がまるで別人になる男のラブストーリー。
そう聞くと、ファンタジーでコメディ要素が強い作品かと思ったけど、さにあらず。スタイリッシュな映像、ファンタジーな設定にも関わらずりリアルな情感、しっとりとしたラブストーリーだった。
18歳の時に朝目覚めたら女性になっていて、翌日から毎日、性別・国籍・子供・老人問わず、毎日違う姿で目覚める男、ウジン。家具デザイナーとして、彼を理解する唯一の友人と、家具のネット通販で生計を立てている。そんな彼が、自分とよく似た趣味や思考をもつ女性、イスに恋をした。3日間は寝ずに同じ姿で毎日デートができたけれど、4日目の朝食の約束は、睡魔に負けて守れなかった。それでも真実を告げて二人は交際を始めるのだけど・・・。
実に123人の俳優がウジン1役を演じていて(その中には韓国で人気の上野樹里も!)、一人の男の孤独や苦悩、友達とのほっとするやり取り、恋焦がれる思いを、観ているこちらに何の違和感もなく連続した一人の人物として魅せているのが素晴らしい。後半は、そんな男を愛したイスの苦しみが描かれ、外見は別人の恋人と過ごす楽しそうなデートの日々から一転する。
毎日違う容姿(性別さえ!)の恋人として過ごす。待ち合わせで彼を見つけることは決してできない。同僚からは目撃するたびに違う男といると疑われる・・・。彼の内面を感じようとしてもできない。内面は、外見のどこかに現れるものではないのか? 美しい心も、みなぎる闘志も、冷徹な思考やふてくされた考え方にいたるまで、長い目で見ていけばその人の外見を作る要素となるはず。だけど、このウジンの場合、毎日変わるものだから、彼の内面が彼の外見に馴染むまで1日では足らないのだろう。そう感じてつらくなるイス。彼の内面を愛したはずなのに。
ウジンがイスの前から消え、その後再開した時、彼本人を前にして本当にその人がウジンだとすぐに確信できないイス。しかし、彼の周りにある彼の作った家具(work)は、雄弁に彼の存在を証明していた。彼と彼の仕事を愛したイスにとって彼の家具を見つけたことは至福だったに違いない。家具はこの物語の重要なディテールになっている。そのシーンには泣けたなあ。
ちょと考えさせられました。人は見た目が100%。第一印象が命。そう思っているのも事実。私はこの私の外見がまるで変わった時、目の前の知人にこれはあなたの知っている私だ、とどうやって説明できるだろうか。昔、養老孟司先生が、人は人間社会で育った以上、その時代や住んでいる国によりほぼ同じような価値観や考え方を持つもので、何が人にとって唯一無二なものかと問われれば、その人の外見だと書いてあったのを読んだことがある。その外見が私を証明するものにならないのであれば、私を証明するものって何だろう?
イス役のハン・ヒョジュが、本当に美しい。透明感があって繊細で、彼女の揺れる心に共鳴できた。なかなか困難なラブストーリーなのだけど、ウジンと彼の親友とのやり取りがコミカルで”抜け感”があってちょうど良かった。