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はやし蜜豆の犬も歩けば棒に当たる、

好きな俳優の作品を集中して観るのが好き。その記録や映画の感想、日常気になる現象をぼそぼそ綴っていきます。

「太陽の子」

そうか、今年は終戦75周年の年にあたるのだ。

しかし、テレビではコロナ禍で多くのイベントが規模を縮小されて実施されていることを告げるだけで、今年が戦後75周年であることはあまり報道されなかったような気がする。

本作は、その今年の8月そ15日に”国際共同制作 特集ドラマ”としてNHKで制作された。

終戦末期に京都大学の物理学の研究室で新型爆弾=核爆弾の開発研究をしていた若者たちの苦悩と青春を描いたもので、戦争ドラマでありながら戦闘シーンはなく、兵隊さんの、”お国を護って戦う”美談や悲劇も話の中心にはない。

軍人ではなく研究者の道を選ぶことで、戦争に駆り出されることなく好きな研究に打ち込む兄(柳楽優弥)と、恵まれた体で軍人の道を歩んだ弟(三浦春馬)。

軍人として、国に命を捧げることを覚悟している弟ではあるが、その心の奥で「死ぬのは怖い」とむせびなく、でもこれが多くの兵隊さんたちの本当ではなかったのか。結局空軍に所属していた彼は特攻の命を受け、終戦間際に出撃して帰ってくることはなかった。

アメリカよりもロシアよりも、とにかく早く原子爆弾を作った国が勝つと言われ、材料が乏しい中でも実験に明け暮れた兄たちだったが、結局8月6日の広島への原爆投下で、アメリカに先を越されてしまった。

原爆後の広島に調査に赴いた彼らが見た灰色の世界。アメリカからの提供か、これまで目にした事のない焼けた遺体までもが映った。これが自分たちが寝食を惜しんで研究していた兵器の現実か!言葉もなく焼野原を見渡すしかない兄たち研究者。

広島、長崎に続いて、次は京都に原子爆弾が投下されるという噂が流れる中、兄は、母親(田中裕子)と幼馴染(有村架純)に逃げろと進言しつつ、自分は比叡山に登って高いところから京都に原爆が落ちる様を観察する、と言う。科学者として自分たちがなし得なかったものが、どのような様で落ち爆発するのか見たい。好奇心とは恐ろしいもので、その科学者の好奇心・探求心が、何十万人の人を一瞬で殺す兵器を生みだすという、冷酷な事実を突きつける。

戦況を悲観的に語る男たちに比べて、やはり美しかったのは女の強さだった。兄弟の幼馴染の有村架純が、兄弟に未来を生きることの意義を愛情深く話す様や、戦地に赴く息子に、母親の田中裕子が巨大な握り飯を握る様。もはや死を覚悟した息子に、元気に帰っておいで、とも言えず、握り飯を渡して体の一部(耳)を触るしかできない母親の健気さと悲しさ。兄弟の母親にしては少し年が上なのではないかと、田中裕子の配役に対して思ったけれど、田中裕子だから出せる、台詞にない情感が、本当にしみじみと悲しく、心が震えた。そして、比叡山に登って・・・と言った長男への諦観した怒りの激しさ。

 

研究室での実験のシーンが多く、これってドキュメンタリー?と思えるような、なんともドラマとしては盛り上がりに欠ける全編を通して暗い話だったのだが・・・。柳楽優弥の”実験バカ”と呼ばれた、科学を語るときの尋常でない熱い話しっぷり、オタクっぽさが素晴らしく、本当に柳楽優弥と言う俳優は、変幻自在、どういう役でも彼しかできない表現でやって見せてくれる、と感心した。

三浦春馬の遺作となってしまった。

www.nhk.jp