クリント・イーストウッドという人は、人生のどうしようもない現実、逃れられなかった悲劇を、なんと冷徹に淡々と提示してくれるのだろう。そこに1ミリの甘ちょろい考えも、楽観も、そして救いもない。
クリント・イーストウッド監督・主演作品ということで、気になっていた本作だが、こんな悲劇的な最後だということを知らなかった。
貧しい家庭に育ちウエイトレスをして貯めた金で、老トレーナー、フランク(イーストウッド)のいるジムの練習生となり、ボクシングでアメリカンドリームを掴もうとするマギー(ヒラリー・スワンク)。フランクのジムで雑用係をしている元ボクサー、エディ(モーガン・フリーマン)の目利きと同情により、最初は女性ボクサーの面倒をみることを断っていたフランクも、マギーの指導をすることになる。
名トレーナーの指導で、ガッツと努力、そして素直さのあるマギーは、めきめきと頭角を現し、チャンピオンのタイトルに挑戦するまでになる。とまあ、ここまでは頑固で愛情深い老トレーナーと遅咲きの女子ボクサーのサクセスストーリーみたいな展開なのだけれど・・。
試合中の事故で頸椎を損傷し、全身が麻痺し人工呼吸器で命をつなぐことになったマギーが、家族よりも信頼をおくフランクに頼んだのが、人工呼吸器を外すことだった。
冒頭に書いたことに戻るが、生きている以上、身に起こることでどうしようもならいないこと、努力したけれど報われない事実、正しく行動したのに必ずしも支持されないこと、理不尽なことはたくさんある。そんな場面に出くわした時、ふとこの作品のことを思い出せたらいいなと思った。
確かにラストは悲劇だったけれど、何かを成し遂げようとして努力したからこそ得たチャンス、見ることのできた風景はあった。マギーにとっては試合に臨む時の観客の大歓声。チャンピオンに挑戦できるなんて、家を親に贈るなんて、夢にもみなかったことだったのだから。
人生いい時も悪い時もある。最後にいい人生だった、って終われる人は、実はそんなに多くはないのかも。キツイ時に、人はかつて一瞬でも、そしてそれがたとえ勘違いでも、ああ、あの時は良かった、いい時もあった、と思えるその瞬間をよりどころに生きることができるのかもしれない。マギーの場合は、それをよりどころに生を終える選択をしたのだけれど。
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