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はやし蜜豆の犬も歩けば棒に当たる、

好きな俳優の作品を集中して観るのが好き。その記録や映画の感想、日常気になる現象をぼそぼそ綴っていきます。

「鬼畜」(1978年):あの時代って、あんなに貧しかったっけ?

今から40年以上前に公開され、日本の高度成長期時代を背景にした話だと思うのだが、当時の世相を随所に感じる。
町には子どもがたくさんいて、男の子たちは汗染みのついたランニングシャツで泥んこになって遊んでいる。大人は今より良い生活をと稼ぐのに必死で、子どもを含む周囲に気を配る余裕はなさそうだ。

都会に生まれた大量なホワイトカラーの父親たちのほかに、当たり前だが本作の主人公のように、自宅兼工場で印刷業を営む父親(緒形拳)もいる。幼い頃に印刷屋に奉公に出され、気は強いが働き者の女房(岩下志麻)と一緒に自分の印刷屋を持ちマジメに働いてきた父親。優しい性格は押しに弱く、成り行きで懇ろになった女との間に子どもができ、7年も囲うことになる。その間できた子ども3人。
3人の子どもを抱えて手当が滞るようになった妾(小川真由美)が、ついに子どもを連れて印刷工場に乗り込んできたら、正妻にとっては青天の霹靂、そりゃあ怒髪天で怒るわな。怒る岩下志麻と、開き直ってしゃあしゃあと物申す小川真由美の言い合いがとにかくすごいからと、事前情報を得ていたわけだけれど、確かに強烈ですごい迫力。

岩下志麻と言えば、「極道の妻たち」での着物姿に結い上げた頭でドスの聞いた声で啖呵を切る印象しか正直なかったのだけれど、本作では30代?だろうか、洋服を着た岩下志麻は普通にきれいな女優だと思った。しかし、その役の激しい性格が強烈!
「本当にあんたの子?」と振り向いた顔が、もう鬼そのものでホラー。

 

火事や大手印刷会社の台頭で印刷屋は自転車操業、とても突然現れた子ども3人を養う余裕はない夫婦に、ふと、捨て子、子殺しの考えが浮かぶ。その恐ろしい考えにどんどん支配されて実行に移していく様が、とてもスリリング。

かわいがっていた子どもを、混雑する東京タワーに置き去りにし、または崖から落とそうとする父親(緒形拳)には、常に迷いと懺悔が心のどこかにある。しかし、実行しようとするその時は人間の心はなくなっている。弱くて身勝手な人間の、振り子のように揺れる感情を緒形拳がさすがの演技で見せてくれた。普通のお父さん、気弱い役をする緒形拳を見るのも、そして若かりし頃の緒形拳を見るのもなんか新鮮だった。
余談だが、すげー!!と感じる緒形拳を観たければ「破獄」(1985年)というNHKのスペシャルドラマをぜひ観ていただきたい。すごいから!

 

兄妹が家の縁台で遊んでいるシーンで始まり、最後はその兄が養護施設に向かう車の中で泣くのを必死でこらえているシーンで終わる。子どもで始まり、子どもで終わった。捨てられまいと、ぎゅっと父親のシャツの裾をつかむ幼子の、いたいけなさと”しぶとさ”みたいなものを感じて、そう感じた自分にもドキリ。

20代と思われる大竹しのぶが婦警役で後半にちょろりと登場。初々しく可愛らしかった。

 

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