父が可愛がっている野良猫が怪我をした。
先日電話したとき「フジ(父が勝手にそう呼んでいる)が、顔や首を噛まれて肉が見えるくらいの大怪我を負った。ここ数日来ないから、どこかで死んでいるのではないかと思う」と悲嘆している。
以来電話の度に言っていたのだが、今回帰省した日、にゃあにゃあと大きな声で餌を求めて件のフジが現れた。
確かに首の左側が裂けたように見え、ピンクの肌が見えている。父が抱いて、ほら、と私に見せようとしたが、フジは父にしか懐いておらず、たまに登場する私を見たら逃げる。フジのためにも私は隠れた。
フジが姿を見せたことが嬉しくて早速餌をあげようとした父だが、しばらく来なかったせいで餌がきれていた。あわてて餌を買いに出掛けた。
私は父が戻ってくるまでなんとか猫を引き留めようと、牛乳を皿に入れて玄関前におき、猫にはここに置いたことを知らせて家の中に入った。
はたして、フジは一直線に牛乳のところに来た。私は縁側からそーっとその様子を伺った。牛乳を飲み終えたフジは、ちょこんと正座して父の帰りを待っていた。
父は間に合った。「フジ、フジ」と父の弾んだ声。猫はにゃあにゃあ父に甘えている。
フジよ、来てくれてありがとうね。
最近、すっかり母の声は小さくなり、会話らしい会話は難しくなってきた。老々介護の父の元にたとえ3日に1回でも、家に来てくれるフジは父の心の癒しになっている。
フジが生きていて、また父の元に来てくれて良かった。フジの傷が治りますように。
(父が言うほど今にも死にそうな感じはしなかった。野良猫は図太い。でも野良猫が長生きしないことも知っている。)