ポーランドのサーカス団から解放されたEO(イーオー)と言うロバのロードムービー。
カンヌで審査員賞を受賞しており、ポーランド映画を観たことがないので興味がわき、かなり前に録画してあった。
観る前は、ロバの視点で人間世界を風刺した作品だと思っていた。ロバにはおとぼけなイメージもあって、旅をしながら冒険をクリアし、最後は飼い主(この場合は、サーカスでバディを組んでいた若い女性、カサンドラ)との再会を果たす、といった単純なハッピーエンドを想像していたのだ。
ところが、オープニングから予想と全く違っていた。真っ赤なライトの中、カサンドラとEOのショーを映していたのだけれど、なぜか本作の緊張感を一気に覚悟させるような不穏な音楽と映像だった。
作中、何度もアップになるEOの大きな黒い瞳。人間の業や矛盾や醜さをじっと見つめるような深い黒に心を掴まれる。
サーカスから解放されたEOは、自然の脅威に触れながら山を越え町に入り、さまざまな人間と関わり合いながらも、時折蘇るカサンドラの温かい手や彼を呼ぶ声に突き動かされ、ポーランドからイタリアへと旅をする。ダムにかかった橋に立つEOの姿は孤高そのもので美しい。彼が出会う人間の誰よりも清い。その姿になぜか泣けてきた。
ラストは突然、あまりにも思いがけない終わり方で、体の中心から嗚咽が込み上げてきた。少したってそんなはずはないと、あれは牛舎のドアが閉まる音だと思い直して落ち着いたのだが、後で作品の情報を探していて、ある結末の解釈を見てまた号泣してしまった。
ロバが主役だから台詞もほとんどない。美しい自然の風景の中に、時折不気味に感じる音楽と、冒頭にあったような真っ赤な照明で映し出される映像が挟まれる。あの赤は何を意味するのだろう。。
EOの目や姿を思い出すだけで泣けてくるのはなぜだろう。
人間の営みに翻弄される、”弱い”立場の動物への憐憫なのか、それに対して自分が非力であることの哀しみ?いや、そういうものより、動物そのものが持つ、生きること=孤高であることへの、尊敬・畏怖みたいなもの。ついでに、運命を受け入れる潔さが、ロバの横顔からにじみ出ていた。。
EOの目を見て、どこかで見た・・、と思ったら、少し前に鑑賞した石村嘉成が描く動物たちの目の中に同じ目があることに気がついた。
EOの孤高の美しさに比べて、人間のなんと愚かしく、エゴイスティックなことか。悲しいくらい滑稽なことか。
予想していなかった内容に、連日やられている。
イエジー・スコリモフスキ監督の視点が本当にすばらしいと思った。
オマケ:「石村嘉成展」の感想はこちら
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