全編モノクロ、台詞は必要最小限。登場人物も少ない。
西部開拓時代とおぼしき風景、仕事を求めて幾夜かを車中で過ごし、着いた町で意図せず殺人事件に巻き込まれ、白人を殺してしまうウイリアム・ブレイク(ジョニー・デップ)
思い返せば冒頭のえらく長い、ただ揺られているだけの汽車のシーンからして、すでに死をイメージさせる。目的地に近づくほど乗客の荒くれ度合いが増し、主人公が地の果てに向かっていることを物語る。
シーンが変わるごとに暗転(スクリーン真っ黒)になり、その回数の多いこと!
町についた時はただの気弱いよそ者だったブレイクだが、殺人事件から一転してお尋ね者となり、手負いの彼を助けてくれたノーボディと名乗るネイティブアメリカン(ゲイリー・ファーマー)と共に荒野を逃避行することになる。
そのノーボディだが、ネイティブアメリカンでも混血故に一匹オオカミ、少年期にイギリスに売られ、そこで教育を受けたことで英語を話す。その時に読んだイギリスの詩人、ウイリアム・ブレイクの詩を愛す、知恵と情を持っている。が、味方なのか敵なのかわからない。何かにつけて詩を口ずさみ、命を救ったものの本当は希望の欠片のこれっぽっちも残っていない白人青年を、死への旅路へ案内するのだから。
ノーボディと旅をする中、出会う白人はろくでなしばかり。ブレイクを賞金目当てに負う3人の殺し屋のおおよそ真っ当でない所業と仲間割れ。仲間割れの末最後に残った最強で執拗で非道な殺し屋が荒野を進む様を見て、塚本晋也監督の「斬」という映画を思い出した。あの映画でも、執拗にすでに殺し屋と化した塚本晋也(役名は忘れたけれど、監督が演じている)がひたすら池松壮亮を追う様が異様な緊張感で描かれていた。獲物を追う者の猜疑心と執念深さと、あり得ない力を持つ怪物のような存在。と思った瞬間、これまたコーエン兄弟監督の「ノーカントリー」という映画も思い出した。ま、きりがないからいいか。
とにかく全編モノクロ、暗転カット多数、あっさりろくでなしたちが殺されていく様子に(保安官は気の毒だが)、気が抜けず身じろぎできない2時間。
音楽はニール・ヤング。と聞いても名前は聞いたことがあるけれど、というレベルなのだが、モノクロの本作を彩る相当な出来映え。印象深い作品の音楽は、いつまでも覚えている私だけれど、本作のテーマ曲のメロディがとんと思いだせない。
で、YouTubeで検索して再度聴いた。それでわかった!観賞中、異様な緊張感を強いていたのは、この野太いギター音だったということを!
撮影時、30歳そこそこと思われるジョニー・デップ。神の化身か悪魔の化身かわからないノーボディ(それでも登場するどの白人よりも率直で判断がまとも)とのやりとりで、困惑したアップの顔が美しい。
詩的でスピリチュアルな画像に、魂のギター音が重なる。
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