劇中歌「Calling you」はあまりに有名。
当時J-WAVEの「TOKIO 100」を聴いていた私は、毎週毎週ラジオから流れる「Calling you」に魅了され、本作のサントラ盤を購入し聴きこんでいた。音楽もストーリーもすっかり頭に入り、情景まで明瞭に思い描くことができ、まるで観たつもりになっていた。(今回初鑑賞)
まず、見た目でキャスティングが素晴らしい。
アメリカの砂漠地帯にあるモーテル兼ダイナー兼ガスステーションを経営する女主人、ブレンダにキャロル・クリスティン・ヒラリア・パウンダー。乾いた大地に仁王立ちした彼女の棒のように細い足は、働きの悪い夫をはじめとする思い通りにならない人生へのいら立ちを表すようだ。
ブレンダの経営するバグダッド・カフェに、旅行中に亭主と喧嘩別れして一人歩いてたどり着いたドイツ人女性、ジャスミンにマリアンネ・ゼーゲブレヒト。彼女の丸っとしたフォルムそのものが、観る者に癒しを与えてしまう不思議さ。
何もかもうまくいかなくて、周囲に当たるしかなかったブレンダだけれど、究極のD&I(Diversity &Inclusion)。何びとも受け入れる度量は限りなく大きい。(というか、どうにでもなれって感じか)
確かに男物の服の詰まったトランクを引きずってきたジャスミンを最初こそ怪しみ、子どもを手なずけられた時は怒りと共に追い出そうとしたが、何を着ても自由だ、ここはアメリカ、It's Free Country!の言葉に諫められ、子供を可愛がるのは、ジャスミンに子どもがいないからと知って、彼女への見方を改める。
そのほかにもモーテルを使わずテント暮らしをする青年、カフェの近くのトレーラーハウスで過ごす初老の男、タトゥーの彫師の女など、実に様々な人が彼女の周りにはいる。そのうち、その一人となったのがドイツ人女性のジャスミンというわけだ。
荒れ果てたダイナーを暇に任せて大掃除し、同様に暇に任せて練習したマジックを客に披露したことで、店が繁盛することになり、ジャスミンはブレンダのダイナーの救世主となる。そんなにうまくコトが運ぶわけはないのが、ファンタジーと思った所以だけれど、人生詰まっていた者同士の奇跡の出会いが生み出すファンタジーは大いに楽しめた。
自由の国アメリカの大らかさ、様々な種類の人がつかず離れずいい距離感で暮らす様。アメリカの”良いところ”だけをちりばめたような本作は、ベルリンの壁崩壊前の西ドイツ製作。乾いた大地に響く「Calling you」、ジェヴェッタ・スティールの声が、二人の女性の心情、友情を、静かに観る者の腑に落としてくれる。ーーー映画館で観たかった。
余談だが、仕事納めを数日後に控え、1年に1回掃除の神様が降臨し大掃除に励む家人をしり目に本作を鑑賞したわけだけれど、主人公の女性二人の物語は、ジャスミンがブレンダのダイナーを大掃除したことから始まる。そういう意味で、掃除をしてこざっぱりすることは何か好転のきっかけになるのかもしれない。この時期、お薦めの映画です。
[http://
にほんブログ村:title]
[http://
映画評論・レビューランキング:title]