池松壮亮が宮本にしか見えねー。
全編にわたり、暑苦しくて騒々しくて痛々しい宮本が、とにかく自分の中の筋1本通して七転八倒している。そんな中でも、恋人となった靖子(蒼井優)とのつかの間の幸せなシーンもあり、そんなシーンでの池松壮亮の優しくて甘ったるい声に、ワーワー叫んでいる声とのギャップを感じてやられてしまう。
一方蒼井優ときたら、本作でその美しいはずの肢体や顔を全く撮ってもらってないのだが、このわずかな幸せシーンで、かろうじて愛すべき可愛い女として写っている。本作のヒロインは美しいだけではできない。いや、蒼井優じゃないとできない。(とまで思わせる力強さと芯の強さ:どっちにしても蒼井優本人が強い)
セクハラという言葉が世に出始めた90年代、パワハラ、コンプライアンスなんて言葉はまだ生まれていない。彼女ぐるみの取引先との付き合いや休日返上で仕事がらみのイベントにも参加した時代に、今となっては「ありえねー」事態に2人が陥り、宮本の男一匹の戦いが始まる。
主人公(宮本=池松)がぶつかって跳ね返され、戦って打ちのめされるの繰り返し。登場人物のほとんどがカッコよくないこの映画。クズのジゴロを気取る井浦新の、ダメ男なのに色気が半端ないのがずるい。
宮本!あんなに図太くて反省を知らない野獣みたいな若造に、なんの戦略もなくただ猪突猛進だけで勝てるのか?!と、こちらも歯を食いしばりながら観ていたわけだけど、宮本なりに勝負をつけた。
映画のラストシーン、池松壮亮(=宮本)の笑った顔に、全身の力が抜けた。なぜか自然と涙か流れた。宮本っ、良かったなー。
最後にスクリーンにドーンと出てくる縦書きのコピー。(たぶんこんな言葉だったと思う)
「男なんですもの。
女なんだから。」
今となっては逆行しているようなあり様かもしれないけれど、肯定してしまう。それでいいじゃん。飾りなし、打算なし、真っすぐで純粋に、相手を欲する(ひと昔前かもしれないけれど)男女の姿。
この時代に、この映画、観て良かった!