母が入院してからは、面会のできる金曜に帰省している。
翌土曜日、実家から駅まで乗ったバスが、お祭りの演出をしていた。
乗車ドアの向かいに飾られたたくさんのかざぐるまは、ドアが開く度に勢い良く回る。カーブの度に風鈴がカラコロなって耳に心地よかった。
誰かのアイデアは、きっと手間やメンテナンスの問題で賛否あったかもしれないし、通勤でイライラした乗客がいたら、お祭り気分に余計イラつくかもしれない….と思いつつ。
気温35℃の中、焼けたアスファルトを渡ってバス停に着いた私には、一服の清涼剤のように感じられた。
月1回の帰省では、岡山に着いたその足で病院の母に面会に行き、翌日は朝から台所に立ち、父のために何種類かおかずを作って帰るようにしている。父は一人になってから、張り合いがなくなったのか、ほとんど料理らしい料理をしていない。
今回、メインに志麻さんのレシピ、みょうがのつくねを作ったのだが、父の口に合わなくて、ほとんどを持ち帰ることに。私の料理は時々父の口に合わず、以前はっきりそう言われたこともあった。
以来、なるべく実家で食べた母の料理を再現しようと試みている。志麻さんのおしゃれな創作料理は、実家で試しちゃいけなかったのだ。(言い訳すると、みょうが好きの私だが、家人が嫌いなので家で作れず、父ならみょうがを食べていた(家庭菜園で作っていた)し、喜んでもらえるかなと思ったのだ。)
まあ、仕方ない。
また、今回の帰省では3、4年ぶりに高校時代の親友と会えるはずだったのだが、彼女のお母さんの体調が良くないとのことで見送られた。
そんなこんなで今回の帰省は、いつもよりいろいろ準備したわりに、肩透かしを食らった感じだった。
そんな中、ほぼ最後の旅程である実家から駅までのバスの中で見たお祭りの演出。
カラコロカラコロ、風鈴の音を聴いていたら、何だかじーんときた。
思えば私は故郷の岡山で、これまでもささやかなエールみたいなものをもらった記憶がある。それはキャンペーンのバス料金無料だったり、ようこそ!の私にとってはスペシャルに見えた貼り紙だったりするのだけれど。
ああ、これが"おもてなし"の心に触れたってことなのかなあ、としみじみ思った。
降りる時「お祭りバス良いですね」と、運転手さんに言うと「夜は花火が見えるようになっています」と、嬉しそうに答えてくれた。
両備バス、ありがとう。