この作品に出演した頃の松下洸平は、申し訳ないがイケてない。
彼こそ、歳を重ねてシワやら陰影やらが加わり、大人の男としていい顔になった俳優さんもそういないのではないか。本作から7年後、ついに射止めたNHK朝ドラ「スカーレット」の主人公の夫役、八郎は素朴なのにセクシーという、松下洸平にしかできない大人の男の魅力があった。
本作の松下洸平はというと、黒澤家の執事兼秘書である男の下で、男ばかりの一家の食事の世話や掃除をする下働きとしてもぐりこんだ、実は当主、黒澤文蔵(吉田鋼太郎)の不認知の子供だった!という役どころ。
当時の斎藤工、市原隼人、林遣都の3兄弟のキャスティングを考えると、斎藤工はたぶん本当の意味でブレークする前。林遣都は10代でデビューして以来、基本的に主役ばかりを務めるホープとして存在し続けるも、たぶん、仮面ライダー出身俳優のような、カッコいい青年としてのラブコメディや恋愛映画をやってきていないちょっと中途半端なポジションにいたような気がする。(勝手な考察です。)
そして、この作品で頭一つ抜けて主役然として存在し、それを裏付けるヒットドラマに出ていたのが市原隼人。で、なんでほぼ無名の松下洸平が4人目の息子?と思うのだけれど、父文蔵からその存在すら完璧に忘れられ、復讐のために彼の屋敷に潜む、施設育ちの一見おとなしい青年に相応しい蒼白さと、何物にも豹変できそうな、特徴の無い外見がハマったのではないか。
最終回で、それまでの従順で心優しい使用人のイメージとは全く違う、自分の復讐心を次男の勲(市原隼人)の内面の一部に重ね、父親殺しを妄信し、それまでの悲惨な人生を清算しようとする姿に悲しさと恐怖を感じた。
蛇足だけど、松下洸平が父親の吉田鋼太郎をめった殴りして殺すシーンは、妙にリアルだった。無言でボゴボゴになぐられるのではなく、殴られるたびに発せられた、殴られることへの怒りの声、唸りのような声のせいだと思う。もちろん、発しているのは父親役の吉田鋼太郎だ。
お話としては、父親殺しの真犯人が見つかり、それまで精神的・肉体的にも支配され続けていた3兄弟は、やっと父親から解放されそれぞれの道を歩む、という希望のある終わり方。全編、黒く暗い画面と展開の中、最後の最後で希望の光が見えた。
それにしても、何と疲れる、気晴らしに見るようなドラマとは正反対の、挑戦的で重苦しいドラマだったのだろうと思う。
見応えがあったのは事実。そして、林遣都の、役の透明感と合った”白い””優しい”青年は、やっぱり心に残るかも。