かなり前に観た映画で、この映画の役所広司のそこはかとない可笑しさが何とも言えず好きで、もう一度観ようと思った。ひょろっと頼りなげな小栗旬の青臭さも、今となっては新鮮だ。
木こりを生業としている岸(役所広司)と、その村にゾンビ映画の撮影隊と一緒に入った気弱な駆け出しの監督、田辺(小栗旬)。
田辺は、ベテランの助監督(古舘寛治)や、撮影監督(嶋田久作)のプレッシャーに押しつぶされそうになりながら監督をしているが、予算もなければ統率力もなく、ロケハンにも苦戦、スタッフ、エキストラにも恵まれず、途中で撮影を投げ出そうとする始末。
出会った当初、自ら進んで動こうとしない田辺を監督とは思わず、ただただ気弱でどうしようもない若造だと思っていた岸だったが、エキストラをやる羽目になったことをきっかけに、少しずつ撮影に、そして自分の息子と齢の近い田辺にも興味を持つようになる。
岸は3年前に妻を亡くしていた。そして会社を辞めて家に帰ってふらふらしている息子(高良健吾)がいるのだが、一方的に働けと怒鳴りつけ、息子は家を出て行ったのだった。
田辺と少しずつ距離を縮めるに従い、岸はゾンビ役のエキストラとして村人たちを借り出したり、撮影の雑務まで買って出たりと、撮影隊に協力するようになり―。
岸の食卓には、いつ食べるかもわからないけど用意された息子の食事。
かつて息子に作った、木の幹でできた将棋盤。それに記された息子の名前と年齢。
その将棋盤で、糖質制限をしている岸と田辺が味付けのりをむさぼりながら将棋を指すシーン。
田辺に贈った木で作ったディレクターチェア。それにも田辺の名前と年齢、そして背もたれには手書きで「監督」の文字。
岸という男の、素朴で愛情深く、饒舌ではないけれど好人物であることが、作業着姿の役所広司の全身から染み出していた。
変わりやすい山の天気の中での撮影は大変で、クラックアップの日は大雨。
山を熟知した岸が一瞬晴れ間が出ると言ったのは本当で、その一瞬間で撮り終えたクライマックスシーン。
映画撮影の大変さ、たくさんのスタッフの様々な思いが一つになる瞬間。
大きな感動があるわけではないし、涙の一粒も落ちやしないが、なんかとてもいい作品だった。いたるところでクスっと笑えるのは、役所広司の絶品の可笑しさに加えて、胡散臭い古舘寛治の存在。
長髪で又吉みたいな頭の小栗旬がカッコいいから程遠く、切羽詰まった絶望の表情もやっぱり可笑しい。
ひょっとして一番好きな邦画かも!見終わってそこまで思えた。
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